令和8年度社会福祉公開講座レポート

「介護の仕事は資格がないとできない」
「福祉は専門職の世界」
そんなイメージを持っている人は少なくないかもしれません。
しかし、「月に1回、1時間だけ」「趣味を活かして」「友達と一緒に」――そんな気軽な関わり方から地域の福祉を支える仕組みが、全国で広がっています。
「誰かの役に立ちたい」をつなぐ仕組み

2026年6月20日、鹿児島国際大学附属図書館視聴覚ホールで、NPO法人かごしま福祉開発研究所主催の社会福祉公開講座が開催されました。
テーマは、 「全国で広がる令和時代の地域互助プラットフォームが鹿児島でも!」
会場には福祉関係者だけでなく、学生や地域住民も含め約80名が参加し、「これからの地域とのつながり方」を考える時間となりました。
開会にあたり、主催であるNPO法人かごしま福祉開発研究所理事長の田畑洋一氏(鹿児島国際大学名誉教授)は、「地域を支え、福祉を開く」という法人の理念を紹介し、「福祉の裾野を広げる視点から、全国で新しい地域互助の仕組みを生み出している鈴木氏を招いた」と講座開催の趣旨を説明しました。
また、共催の地域総合研究所の中西孝平所長は、研究所の紹介に併せて、研究所が今年度から「デジタル時代と地域社会」をテーマに共同研究を進めていることに触れ、「慢性的な人材不足に直面する福祉分野において、デジタル技術は地域との新たな接点を生み出す可能性がある」と期待を寄せました。

全国で広がる「スケッター」の挑戦
講師を務めたのは、株式会社プラスロボ代表取締役CEOの鈴木亮平氏。
鈴木氏が展開する「スケッター」は、介護施設や福祉事業所と、「空いた時間で誰かの役に立ちたい」と考える地域住民を結びつける有償ボランティアのプラットフォームです。
現在、登録者は全国で約1万3千人。
驚くことに、その7~8割は介護や福祉の経験がない人々。
鈴木氏によれば、多様な人が福祉現場に関わるためには、現場の業務を細かく切り出す工夫が欠かせないといいます。
活動内容は身体介護などの専門業務ではなく、
・食事の配膳や片付け
・話し相手や麻雀の相手
・イベントの準備や運営
・楽器演奏や特技の披露
・SNS投稿用の動画編集
など、「できること」「好きなこと」を活かした関わり方が中心です。
鈴木氏は、
「介護職員の仕事をそのまま代替するのではなく、職員が苦手なことや負担に感じていることを地域の人の得意分野で補うんです。」
と説明しました。
こうした業務の切り出しは、単に人手不足を補うためだけではなく、職員が利用者と向き合う時間を確保し、専門職が本来担うべきケアに集中できる環境づくりにもつながります。地域住民が福祉現場に関わることで、事業所の魅力を知る人や応援する人が増え、将来的な人材確保や地域とのつながりの強化も期待されています。

「今すぐ人手」ではなく、「未来の応援団」を増やす
スケッターはアルバイトとも少し違います。
参加する人の多くは、「お金を稼ぎたい」ではなく、「地域に貢献したい」「福祉の仕事を知りたい」「誰かに喜んでもらいたい」という思いを持っているそうです。
鈴木氏は、人材派遣会社やスポットワークサービスとの違いについても触れました。
「急に職員が辞めてしまった」「今日のシフトを埋めたい」といった緊急度の高い人材確保には、人材派遣や紹介会社が適しています。一方で、スケッターはすぐに人手不足を解消する仕組みではありません。
「半年後、一年後に福祉を応援してくれる人を増やしたい。福祉の現場を知る人や、将来働くかもしれない人を地域の中に増やしていくことが大切なんです。」
そうした考え方のもと、スケッターは地域住民と福祉現場との新たな接点づくりを目指しています。
高校生から80代まで。「福祉人材」は専門職だけじゃない
講演で特に印象的だったのは、スケッターに参加している人たちの幅広さでした。登録できるのは高校1年生から。中学生や小学生も保護者と一緒なら参加できます。一方で、70代、80代の参加者も少なくありません。
茨城県のある町では、80歳を目前にした方が最も頻繁に活動しているというエピソードも紹介されました。また、引きこもりを経験した若者が、最初は1時間だけ施設を手伝い、感謝される経験を積み重ねる中で自信を取り戻し、最終的には正社員として働くようになった事例も報告されました。
鈴木氏は、2040年には介護人材が約68万人不足すると推計されている現状を示しながら、
「人材を奪い合う時代ではありません。どんな仕事をしている人でも、月に1回でも福祉に関われる社会をつくりたい。」
と語りました。
その背景には、福祉分野を専門職だけで支えるのではなく、学生や会社員、子育て世代、シニア世代など、多様な人々が「月に1回、1時間から」関わることで、地域全体で支え合う仕組みをつくりたいという思いがあります。鈴木氏の言葉には、「地域福祉は専門家だけのものではなく、誰もが誰かの力になれる」というメッセージが込められていました。
「関係人口」を増やす大学の挑戦
続いて、鹿児島国際大学福祉社会学部・地域総合研究所所員の川﨑竜太准教授が、令和8年度から始まった研究テーマ「関係人口創出に向けた福祉共創プラットフォームの構築と評価」について報告しました。
川﨑准教授が注目するのは、福祉分野と若い世代との新しい接点づくりです。
人口減少が進む地域社会において、継続的に地域と関わる「関係人口」の創出を重要な課題として位置づけています。
「学生に『参加してください』と呼びかけるだけではなく、学生自身が参加しやすい仕組みを学生と一緒につくりたい。」
そんな思いから、まずは大学生へのアンケート調査を行い、高校との連携も視野に入れながら、鹿児島ならではの『学生参加型プログラム』の開発を進める予定だといいます。
例えば、地域イベントの運営補助、放課後等デイサービスでの学習支援、音楽や芸能活動を行う学生によるパフォーマンス、さらにはオンライン交流会なども検討されています。
「福祉を学ぶ学生だけではなく、さまざまな学部や高校生にも参加してもらえる仕組みにしたい。」
川﨑准教授は、地域との関わりを通して継続的につながる「関係人口」を増やし、学生の学びと地域福祉の実践を結び付けることを目指していると語りました。

鹿児島市でも「スケッター」スタート。3週間で登録者100人近く
鹿児島市では、介護人材の裾野拡大を目的として、2026年3月23日に株式会社プラスロボと連携協定を締結しました。同社が運営する有償ボランティアマッチングサービス「スケッター」を活用し、2026年6月1日から11月30日までの期間、介護事業所はシステム利用料無料でサービスを利用できる実証事業が始まっています。
今回の社会福祉公開講座は、この実証事業のキックオフイベントとして鹿児島市の後援を受けて開催されました。
講座開催時点で、登録者は約100人、参加事業所は約25施設と順調なスタートを切っており、地域住民が福祉分野に関わる新たな仕組みとして期待が寄せられています。
鹿児島での実践事例も紹介されました。
NPO法人かごしま福祉開発研究所副理事長で、医療法人・社会福祉法人を運営する新田博之氏は、自法人で進めてきたシニア世代のワークシェアの取り組みを紹介しました。
従来のアルバイトでは雇用契約の締結や労務管理などの手続きが必要になりますが、有償ボランティアとして参加できるスケッターを活用することで、より柔軟に地域住民が関われる仕組みを整えることができたといいます。
「少しだけ手伝いたい」「健康づくりも兼ねて地域と関わりたい」と考える人たちにとっても参加しやすく、福祉事業所にとっても新たな地域との接点づくりにつながる可能性が示されました。
新田氏は「介護人材を確保するために人材紹介会社や派遣に頼るだけでは限界がある」と指摘し、地域の中から少しずつ関わる人を増やしていくことの重要性を強調しました。
質疑応答
講演と研究報告を受けて行われた質疑応答では、「アルバイトとは何が違うのか」「学生や高齢者は参加しやすいのか」といった率直な質問が寄せられました。

会場からの質問をピックアップ!
質疑応答の一部を、Q&A形式でお届けします。

「アルバイトとスケッターの違い」と「謝礼」について教えてください。

最も大きな違いは雇用契約を結ばないことです。有償ボランティアという概念で、事業所が自由に謝礼を設定でき、最低500円以上というルールがあります。通常2〜3時間の活動で1500円から2000円程度(交通費込み)が設定されることが多いです。演奏プログラムなど特別な技能を要する場合はより高額になることもあります。サイト上で活動時間と謝礼が明記されており、カレンダーから希望の案件を選んで応募できるシステムになっています。

学生参加型プログラムを検討していますが、大学生はどのような形で参加できますか?

友達同士やサークル単位での参加も歓迎しています。アカペラサークルなら歌を披露できますし、落語を学んでいる学生なら施設で発表することもできます。SNSのショート動画撮影・編集・発信の手伝い募集もあります。好きなことや得意なことを活かしてください。

介護の資格は必要ですか?

資格は必要ありません。多様な方が関わるために現場でのお手伝い業務を細かく切り出す工夫があります。食事の配膳や話し相手、イベント運営など、未経験でも参加できる活動が数多くあります。まずは1時間からでも福祉に関わってほしいと思っています。

高齢者はスマートフォンを使えなくても大丈夫?

電話でのサポートも行っています。操作方法を説明しながら登録を進めることも可能です。

保育分野(読み聞かせなど)でもスケッターを活用できますか?

もちろんです。スケッターが直接子どもたちと関わる場合と、雑務を手伝うことで職員の負担軽減により専門職が本来の業務に集中できる環境整備の両方の面で活用可能です。
地域とともに支える新たな福祉のかたち
今回の公開講座では、福祉を専門職だけが担うものとして捉えるのではなく、地域住民や学生、福祉事業者、研究者がそれぞれの立場から関わることで、新たな地域共生のかたちが生まれる可能性が示されました。
話し相手になること、写真を撮ること、動画を編集すること、楽器を演奏すること――そうした日常の得意なことや趣味が、誰かの暮らしを支える力になることが改めて共有されました。
「福祉を仕事にするかどうかはまだ決めていない。」
「まずは少しだけ地域と関わってみたい。」
そんな高校生や大学生にとっても、スケッターは地域との新しい接点になるかもしれません。
令和時代の地域互助は、「支える人」と「支えられる人」を分けるのではなく、誰もが誰かの力になれる社会を目指しています。
鹿児島市で始まったこの取り組みが、地域住民や学生、福祉事業者の新たな協働を生み出し、持続可能な地域共生社会の形成につながることが期待されます。
今後も地域総合研究所では、教育・研究・地域貢献を横断する活動を通じて、学生・地域住民・福祉事業者とともに学び合い、支え合う地域社会の実現に向けた実践を積み重ねてまいります。



