地総研志布志フィールドワークレポート①
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ものづくりを支える「地域」の力
地域総合研究所では、令和8年度の研究プロジェクト「デジタル技術と地域社会―地方私立大学による地域貢献―」において、AI・ICTが地域の企業や教育現場でどのように活用されているのかを調査しています。
今回はその一環として、株式会社南光 志布志工場を訪問しました。

自動車部品に使われるプレス金型を中心に、設計から加工、組立、調整、検査までを一貫して行っている工場です。工場では、3DCADや成形シミュレーション、NC工作機械など、さまざまなデジタル技術が活用されていました。
なぜ、志布志に工場があるのか?
工場の所在地を見て、まず気になるのが「なぜ志布志なのか」ということ。
地域に企業が立地する背景には、土地や人材だけでなく、港や道路などの交通・物流インフラも大きく関わっています。

志布志港は、鹿児島県東部の大隅半島に位置する「重要港湾」で、南九州の物流を支える重要な拠点です。東京・大阪・沖縄を結ぶ長距離フェリーのほか、国際コンテナ定期航路もあります。国土交通省も、志布志港を「南九州地域の国際物流拠点」と位置づけています。
その規模を示す一つが、コンテナ取扱量です。令和6年(2024年)の志布志港のコンテナ取扱量は博多港、北九州港に次ぐ九州第3位の規模とされています。2011年には、九州で唯一「国際バルク戦略港湾(穀物)」にも選定されました。
さらに、志布志港は木材の輸出拠点としても知られています。国土交通省によると、2010年以降、木材輸出の取扱数量・輸出額が11年連続で全国1位となった実績があり、全国の木材輸出を支える港の一つとなっています。
港だけではありません。東九州自動車道や都城志布志道路など、道路による広域交通ネットワークも整備され、志布志港と周辺地域を結ぶ物流環境が整えられています。
こうして見ると、志布志は「鹿児島県の端にある港町」というだけではありません。むしろ、港湾や道路、空港などのインフラを通じて、地域と全国、そして海外につながっています。
南光志布志工場がこの地で自動車産業を支える背景にも、こうした志布志の物流拠点としての立地が関係しています。
本学卒業生も、ものづくりの現場で活躍
工場見学に先立ち、南光の担当者から、ものづくりの仕事と人材育成についてもお話を伺いました。
金型の仕事には、組立、機械加工、設計など、さまざまな分野があります。担当者からは、工業系の学校を出ていなくても、本人の意欲次第で、それぞれの分野で活躍できるという説明がありました。
実際に、本学経済学部の卒業生も同社で働いています。入社3年目で、現在は精密な図面を扱う仕事に携わっています。

担当者からは、大学で学んだ知識は仕事をする上で役立つ一方、実際の仕事では、入社後も新しい知識を継続的に学んでいく必要があるとの説明がありました。
専門的なものづくりの現場であっても、最初からすべての専門知識を身につけていることだけが求められるわけではありません。入社後も学び続けること、周囲とコミュニケーションを取りながら仕事に取り組むこと。そうした姿勢が、ものづくりの現場で働く上でも重要であることが分かりました。
「100キロ級」に挑む――高張力鋼への挑戦
南光志布志工場の技術力を象徴するものとして、担当者から紹介されたのが高張力鋼への挑戦です。
高張力鋼は、一般的な鋼板より強度を高めた鋼材で、自動車の軽量化や安全性を支える材料です。同社では45キロ、60キロ、80キロ、100キロ、120キロ級などを扱っており、担当者によれば、100キロ級から加工の難易度が大きく上がるといいます。

同社が高張力鋼に参入した当初、100キロ級への挑戦を希望した担当者らに対し、会長は「失敗しても構わない」として挑戦を後押ししました。難しい材料だけに、失敗のリスクや収益面で厳しい時期もありましたが、その積み重ねによって、現在では100キロ級まで対応できる技術を培っています。
こうした技術力は、鹿児島という立地を考えると、より大きな意味を持ちます。遠方にあるため輸送コストというハンデがあるにもかかわらず、同社には顧客から継続的に受注が入っています。
デジタルシミュレーションで「どこがずれるか」を見る
高張力鋼は、プレスした後に元の形に戻ろうとする「スプリングバック」が大きく、狙った形状に仕上げることが難しい材料です。
そこで活用されているのが、3DCADや成形シミュレーションです。コンピューター上で成形後の形状を予測し、どこに寸法のずれが生じるのかを事前に確認します。

シミュレーションの画面では、寸法のずれが色で表示されます。緑色が誤差0mmを示し、そこから±1mmの範囲でずれの大きさを確認できます。同社の製品では、概ね±0.5mm程度の公差が求められるため、わずかな寸法差も重要になります。

紹介された事例では、形状変更を含むシミュレーションを3回実施し、その結果を加工に反映しました。その結果、通常なら5~6回程度必要になると見込まれていた調整を、3回で完了。人の手による仕上げを行わずに品質を確保することができました。
コンピューターの画面上で「どこが、どれだけずれるのか」をあらかじめ確認することで、実際に加工してから修正する試行錯誤を減らしているのです。調整回数を減らすことは、品質の安定だけでなく、工程や原価の削減にもつながります。
それでも最後は「人の技術」
金型の製作では、機械加工によって高い精度を実現できる一方、最後には人の技術が欠かせません。
説明者によると、金型の上型と下型をかみ合わせた際の「当たり」の強弱を見極め、必要に応じて削ったり、すり合わせたりする作業があります。こうした微調整は、数値や図面だけでは判断できない、熟練者の経験と感覚が求められる工程です。

同社では、こうした「人の手でしかまとめられない部分」を、できるだけ機械加工やシミュレーションによって減らしていくことを目指しています。しかし、デジタル技術ですべてを置き換えるのではなく、最後に人が品質を見極め、仕上げる。そこに、日本のものづくりの強みの一つがあります。
印象的だったのは、同社が単に図面どおりに金型を製作するだけではなく、顧客の仕様や意図をくみ取り、それを具体的な形にしていくことです。デジタル技術による効率化と、熟練者の経験・判断を組み合わせることで、地方にありながら、高い付加価値を生み出すものづくりが実現しています。
デジタルと熟練技術で、地方から世界へ
デジタル技術によって工程とコストを改善する。熟練者の技術によって品質を支える。そして、高張力鋼のような難易度の高い領域に挑戦し、他社にはない技術を蓄積する。
南光志布志工場の事例から見えてきたのは、地方に立地することによるコスト上のハンデを、技術力と付加価値によって乗り越えていくものづくりでした。
鹿児島にありながら、場所ではなく「何がつくれるか」で選ばれる。そこに、地方発のものづくりが目指す一つの姿を見ることができます。

次は、学校の現場へ
ものづくりの現場では、デジタル技術と熟練者の技術を組み合わせながら、地方から高い付加価値を生み出していました。
では、学校ではデジタル技術がどのように活用されているのでしょうか。
AIやSNSを活用し、地域と学校をつなぐ田之浦小学校の実践を紹介します。
