大島紬はデジタルで生まれ変わるのか― 伝統産業におけるDXと「価値の再定義」

令和8年度 共同研究プロジェクト 研究計画

鹿児島を代表する伝統工芸として知られる大島紬。

しかし今、その大島紬が大きな転換点を迎えています。背景にあるのは、和装文化の変化と市場縮小、そして職人不足です。こうした課題に対し、近年注目されているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の導入です。

鹿児島の伝統産業は、デジタル技術によってどのように変わろうとしているのか。経済学部・中西 孝平 教授による研究では、大島紬産業を対象に、伝統と革新が交差する現場を調査します。

「大島紬産業におけるDX導入を通したイノベーション

中西 孝平 経済学部 教授/地域総合研究所 所長

― そもそも「大島紬」とは?

大島紬 は、フランスの「ゴブラン織」、イランの「ペルシャ絨毯」と並び、“世界三大織物”の一つに数えられる鹿児島の伝統工芸品です。

30以上もの工程を経て生み出されるその生地は、完成までに半年から1年を要することもあります。美しい図柄、カラスの濡羽色にも例えられる深い艶、しなやかな肌触り、そして軽やかな着心地――。大量生産品にはない、職人技の結晶とも言える魅力が詰まっています。

1300年以上の歴史を持つとされる大島紬。その丈夫さゆえに、親から子へ、さらに孫へと受け継がれ、親子三代にわたって愛用されることも珍しくありません。それは奄美の自然と職人たちの高度な技術に裏打ちされた高い品質のゆえに、高級着物として高く評価されてきました。

しかし、その一方で、現代では和装文化の縮小により需要が減少し、大島紬産業は厳しい状況に直面しています。

― 変化する時代と伝統産業の課題

かつて着物は日常着として親しまれていました。しかし生活様式の洋風化によって、着物を着る機会は大きく減少しています。

大島紬業界も、高級路線の確立や新たな販路開拓によって一定の市場を維持してきましたが、産業規模そのものは縮小傾向にあります。

さらに課題となっているのが、業界特有の分業構造です。

大島紬は、糸づくり、染色、図案制作、織りなど、多数の専門工程によって支えられています。この仕組みは高品質を実現する一方で、一部の技術者不足が全体の生産に影響を及ぼします。ひとたび後継者難に陥れば、大島紬生産に大きな影響が及びます。

― DXは「効率化」だけではない

こうした状況の中、注目されるのがDX導入です。

たとえば、デジタル技術によって、図案設計や生産などの工程でこれまで蓄積された職人の技術やノウハウをデータ化できれば、伝統技術の継承に役立つ可能性があります。

大島紬におけるDX導入がもつ可能性は、単なる「省力化」や「効率化」にとどまりません。

和装文化は長年にわたり縮小傾向にあります。そうした中、大島紬産業では、従来の和装の枠に捉われない新製品の開発など、新たなファッションへの挑戦が模索されています。

DXの導入は単なる技術導入にとどまらず、「大島紬とは何か」「現代においてどのような価値を持つのか」を再定義することにもつながりうるものなのです。

― “伝統と革新”の融合

本研究では、先行研究の分析に加え、大島紬関連企業へのインタビューや現地視察を実施。実際の現場で、デジタル技術がどのように導入されているのかを調査します。

そこで注目すべきは、「伝統を守るために変わる」という姿勢です。

一般的に、伝統産業とデジタル技術は対立するものとして語られがちです。しかし実際には、伝統技術を守り続けるためにこそ、新しい仕組みが必要だという認識が広がりつつあります。

職人の感覚や経験を大切にしながら、デジタル技術を活用して次世代へつなぐ――。大島紬産業をはじめとする伝統産業は今、その両立を模索するべき時が来ているのではないでしょうか。

― 鹿児島から始まる伝統産業の未来

伝統産業の課題は、鹿児島だけの問題ではありません。全国各地で、後継者不足や市場縮小への対応が求められています。

その中で、大島紬産業におけるDXの試みを明らかにできれば、大島紬が「伝統を未来につなぐモデルケース」として注目される可能性を持っています。

変えてはいけないものを守るために、変わるべき部分を見極める。
中西教授の研究は、伝統とイノベーションが共存する未来へのヒントを示しています。

研究者コメント

着物を着る機会は減っています。
大学生・高校生のみなさんが着物を着るのも、成人式や結婚式など、「ハレの日」くらいでしょう。
だからと言って、大島紬産業は「古臭いものを作る時代遅れの産業」と見ないでください。
一見、古臭く見える産業でも、斬新な取り組みが行われ、みなさんがまだ見ない新しい価値を世の中に提供しているのです。

中西 孝平

中西 孝平  NAKANISHI Kouhei

経済学部 教授/地域総合研究所 所長

専門分野・研究キーワード

経営学・中小企業論、地場産業、事業システム、イノベーション

>>研究者インタビュー

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