保育の現場で、AIはどのように活用されうるのか― 生成AIの活用実態から考える保育の専門性

令和8年度 共同研究プロジェクト 研究計画

近年、私たちの生活に急速に浸透している「生成AI」。

文章作成やアイデア提案を行うChatGPTをはじめ、多くのAIツールが仕事や学習の場で活用されるようになっています。

こうした変化は、教育や保育の現場にも広がり始めています。

本研究では、保育者がどのように生成AIを利用しているのか、その実態と影響を明らかにしようとしています。

「保育者の生成AI活用の実態の考察

福島 豪 福祉社会学部 教授

― 保育者の“新しい相棒”は、現場をどう変えるのか

鹿児島県では、保育者の不足や離職率の高さが課題となっています。保育現場では、子どもと向き合う時間だけでなく、行事準備、製作物の作成、保護者対応、記録業務など、多くの仕事が求められています。

これまで保育業界では、長らく低賃金が大きな問題として指摘されてきました。近年は処遇改善などによって給与水準は一定の改善傾向にあるものの、依然として早期離職は十分には減少していません。つまり、保育現場の課題は単に「賃金」だけでは説明できない段階に入っているといえます。

背景には、慢性的な業務負担の大きさや精神的負荷、人手不足による余裕のなさ、さらには「理想の保育」と現実とのギャップなど、複合的な要因が存在しています。そのため現在は、保育者の負担をどのように軽減し、働き続けられる環境を整えるかが重要なテーマとなっています。

これまでも保育者は、SNSを活用して製作アイデアや遊びのヒントを集めてきました。しかし現在は、生成AIの登場によって、情報収集やアイデア発想の方法がさらに大きく変化しています。

例えば、

・行事の企画アイデアを考える
・年齢に応じた遊びを提案してもらう
・おたより文例を作成する
・保護者への説明文を整理する

といった場面で、生成AIが活用され始めています。

― 便利さの一方で浮かぶ「代替」の懸念

生成AIは、保育者の業務負担を軽減する可能性を持つ一方で、別の懸念も生まれています。それは、「保育士がAIの代替者になってしまうのではないか」という視点です。

近年、AIは文章作成や計画立案だけでなく、子どもの発達分析やコミュニケーション支援にも活用され始めています。今後、AI技術がさらに進化すれば、「保育計画を考える」「子どもの様子を記録する」「保護者や子どもへの対応を提案する」といった、これまで保育士が担ってきた専門的業務の一部がAIによって置き換えられる可能性も否定できません。

その結果、保育者が“AIの指示を確認する存在”へと変化し、本来の専門性や主体性が弱まってしまう危険性も指摘されています。

特に保育は、単なる知識や効率だけでは成立しない仕事です。

同じ言葉でも、子どもの性格や家庭環境、その日の気持ちによって受け止め方は異なります。保育者には、その場の空気や感情の変化を読み取りながら、「今、この子に必要な関わり」を柔軟に判断していく力が求められます。

AIがデータをもとに支援を行うことは可能でも、人間同士の関係性のなかで築かれる保育を完全に代替することは容易ではありません。

そのため本研究では、単に「AIを導入すれば便利になる」という視点だけではなく、AIに任せる領域と、人間だからこそ担うべき領域をどのように整理していくのかという点も重要なテーマとして捉えています。

― 鹿児島県内で実態調査を実施

本研究では、鹿児島県内の関係団体の協力を得ながら、保育者へのアンケート調査やインタビュー調査を実施します。

調査では、

・どのくらいの頻度で生成AIを利用しているのか
・どのような目的で使っているのか
・実際にどのような場面で役立っているのか

などを詳しく分析し、保育現場における生成AI活用の現状を明らかにしていきます。

さらに、AIとの適切な距離感や、これからの保育者に求められる専門性についても検討を進めていく予定です。

― AI時代だからこそ問われる「保育とは何か」

生成AIは、保育者を支える有効なツールになる可能性を持っています。その一方で、AIの活用が広がるなかで、保育者に求められる専門性や判断力はどのように変化していくのかという問いも生まれています。

本研究は、AIを「便利な道具」として活用しながらも、保育士が単なるAIの補助者や代替可能な存在にならないためには何が必要なのかを問い直す試みでもあります。

AI時代における保育のあり方や、人間だからこそできる支援とは何か。本研究の取り組みは、これからの保育を考えるうえで重要な示唆を与えることが期待されています。

研究者コメント

生成AIが急速的に発展した昨今、その発展自体には問題はありませんが、正しい使い方等の教育は追いついていないのが現状です。ましてや、もう学校を卒業し、社会人として活躍されている方々にとっては、なおさらのことです。

いわゆる「リテラシー」というものへの理解はそれぞれだからこそ、生成AIの使い方も当然バラバラになるはずです。そのような状況下では、すべての思考をAIに託してしまう人が出ても、それはなんらおかしい現象ではありません。そうなった場合、それは「便利」の一言では済まされるものなのでしょうか。

かつてパスカルは「人間は考える葦である」と言いました。パスカルの言う通り、人間が「考える葦」であるのならば、考える行為をやめた人間は、どうなるのでしょうか。

本研究は、そうした危機感がベースとなっており、保育者がどのように生成AIを利用しているのかを模索し、現状を明らかにすることを目的としています。

福島 豪

福島 豪  FUKUSHIMA Go

福祉社会学部 准教授

専門分野・研究キーワード

保育学、幼児教育学、教育哲学、保育離職、領域「言葉」

>>研究者インタビュー

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