離島の学校はAIでどう変わるのか― 学校DXがひらく新たな学びのかたち

令和8年度 共同研究プロジェクト 研究計画

「先生が足りない」
「一人で複数の学年を同じ教室で教える」
「研修や出張には、船で片道20時間以上かかることも――」

鹿児島県の離島教育を語るうえで、「距離」は避けて通れません。
鹿児島県の広がりは南北およそ600キロ。これは東京から青森、あるいは東京から広島に匹敵する距離です。
例えば、県南端の与論島から鹿児島本土までは、フェリーで片道約20時間。そのため、県内移動でも飛行機の利用は当たり前。教員研修や出張だけでも、大きな移動負担を伴います。

さらに、海に点在する島々では、学校の規模も小さく、限られた教員数で学校運営を行わなければなりません。

そんな離島教育の現場で、いま期待を集めているのが「学校DX」と「生成AI」です。

ICTやAIを活用しながら、離島だからこそできる教育をさらに発展させる――。その可能性を探る研究が、鹿児島の島々で始まっています。

「離島・へき地における学校DXの推進と生成AI活用を通じた学校経営の充実に関する研究」

辻 慎一郎 福祉社会学部 准教授

― “東京~青森”に匹敵――南北600キロに広がる鹿児島の離島教育

鹿児島県は、日本でも有数の離島県です。
離島の数は全国第3位となる1,256。うち有人離島は28島。

島々は海を隔てて点在し、地域によっては本土への移動に長い時間を要します。天候によって船や飛行機が欠航することもあり、教育環境は都市部とは大きく異なります。

離島の学校では、児童生徒数が少ない「小規模校」が多く、教員数も限られています。

都市部では当たり前にある教育環境を、そのまま離島に持ち込むことは簡単ではありません。だからこそ、離島には離島ならではの学校づくりが求められています。

―「人数が少ないから楽」ではない? 1人で何役も担う、離島の先生たち

「児童生徒数が少ない学校なら、先生の負担も軽いのでは?」

離島の小規模校に対して、そうしたイメージを持つ人は少なくありません。しかし実際には、少人数だからこそ、教員一人あたりの役割はむしろ増える傾向があります。

離島の学校では、限られた人数で学校全体を運営しなければなりません。

授業に加え、

・生徒指導
・学校行事の企画運営
・ICT機器の管理
・保護者対応
・地域との連携
・部活動指導
・校内事務

など、多岐にわたる業務を少人数の教職員で分担しています。

さらに、小規模校では一人の教員が複数の学年を同時に教える「複式学級」が多くあります。例えば、小学3年生と4年生が同じ教室で学び、教員が異なる授業内容を並行して進めるケースです。

つまり、「人数が少ない=業務が少ない」ではありません。
むしろ、教員数に余裕がないからこそ、一人ひとりが“何役もこなす”ことが前提となっているのです。

また、都市部の学校のように教科ごとの専門教員配置が難しいケースもあります。そのため、「得意分野を活かして役割分担する」というより、「誰かが担わなければ学校が回らない」という状況が生まれやすいのも離島教育の特徴です。

一方で、小規模校には離島ならではの強みもあります。
異学年同士のつながりが深く、地域との距離も近い。子どもたちは地域文化や自然と日常的に関わりながら学んでいます。

その価値をどう守りながら、教員の負担も支えていくのか。
そこに、学校DXや生成AI活用への期待が高まっています。

― 生成AIは、離島教育の可能性を広げるのか

近年、教育現場で注目されているのが生成AIの活用です。

生成AIは、文章作成や情報整理、教材づくりなどを支援できる技術として急速に普及しています。学校現場でも、授業教材やワークシートの作成、校内文書の整理、学習活動のアイデア提案など、さまざまな場面での活用が期待されています。

しかし、本研究が目指しているのは、単なる「効率化」ではありません。

生成AIを活用しながら、離島ならではの教育の魅力をさらに高める学校経営を実現することです。

例えば、島の自然や文化を題材にした探究学習や、地域の魅力を子どもたち自身が発信する活動、離れた地域とのオンライン交流など、ICTや生成AIを活用することで、これまで以上に多様で創造的な学びが広がろうとしています。

本研究では、生成AIを「教員の負担軽減」のためだけではなく、離島教育そのものの価値を高める学校経営につなげていくことも重要なテーマとして位置づけています。

― 離島の学校から、未来の教育モデルを探る

本研究では、瀬戸内町や徳之島町を中心に、実際の学校現場でフィールドワークを進めます。

教職員へのヒアリングやアンケート調査を通じて、学校経営や教育実践の現状を把握しながら、生成AIを活用した校務支援や授業改善にも取り組んでいます。

現場の課題を丁寧に拾い上げながら、「離島における持続可能な学校経営モデル」を構築することが研究の目的です。

都市部のモデルをそのまま持ち込むのではなく、地域の実情に合わせた教育の形を探る。その挑戦が、鹿児島の離島で進められています。

― 離島教育は、日本の未来を映している

人口減少や教員不足が進むなか、離島やへき地の教育課題は、日本全体がこれから向き合うテーマでもあります。
だからこそ、鹿児島の離島で進む学校DXや生成AI活用の取り組みは、単なる地域課題の解決にとどまりません。

「どこに住んでいても、豊かな学びを実現できるのか」

その問いへのヒントが、島々の教育現場にはあります。

海を越え、距離を越え、学びをつなぐ。
離島教育はいま、新しい時代へ踏み出そうとしています。

研究者コメント

鹿児島の離島が抱える教育課題は、人口減少や教員不足が進む日本全体がこれから直面する「未来の課題」でもあります。

本プロジェクトでは、近年急速に発展する生成AIを、単なる「人間の業務の代替」や「効率化ツール」としてではなく、離島ならではの豊かな教育実践をさらに発展させる「契機」として捉えています。

瀬戸内町や徳之島町の学校現場の先生方と協働し、教員の負担軽減と子どもたちの学びの充実を両立させる新たな学校経営モデルを探究します。

AI社会において、私たち地方私立大学が地域教育にどう貢献できるのか、
その具体的な道筋を鹿児島の島々から示していきたいと考えています。

辻 慎一郎

辻 慎一郎  THUJI Shinichiro

福祉社会学部 准教授

文部科学省学校DX戦略アドバイザー

専門分野・研究キーワード

教育工学・コンピュータ利用・ネットワーク・学校経営・授業研究・教師教育・情報教育

>>研究者インタビュー

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